自宅を離れた専門病院での治療
子どもの闘病生活には付き添い家族が必要
子どもが高度治療の必要な重い病気になったとき、治療できる病院が自宅から通いきれない場所でも、家族は子どものために、その病院に駆けつけます。入院期間が数ヶ月になることも少なくないので、子どもが病気と闘っていくためには、家族が付き添って、子どもの気持ちを支えていくことが不可欠です。
家族は、面会時間内に子どもに付き添ったのち、夜は病院の外に宿泊先を求めることになります。ホテルでの連泊や、外食ばかりになり、出費がかさんできます。もし病院に泊まることができても、簡易ベッドやカーテン1枚だけで仕切られた落ち着かない環境での生活になり、身体的にも辛くなってきます。なにより、見知らぬ土地の病院生活では、知り合いもいなく緊張感と孤独感が大きくなりますし、仕事や学校のために地元に残っている家族のことも心配です。
このように、家族は、子どもの病気のことだけでも不安が大きいのに、さらに自分の滞在場所のことでも、経済的・精神的・身体的負担を抱えることになります。
闘病中の子どもの気持ちを支えるのは、そばに付き添う家族の存在です。例えば、小児がんの治療では、痛み、食欲の低下、吐き気や全身のだるさなどの辛い副作用が伴い、治療への意欲を減退させることがあります。このような状況のとき、家族がそばにいる安心感が、子どもの治療への意欲を支えます。そのため、家族が疲れきってしまっては、子どもの治療への意欲に良い影響を与えません。
付き添い家族の経済的・精神的負担を軽減する
「病院近くのわが家」
そこで必要になるのが、病院近くで「わが家」のように過ごせる患者家族滞在施設(ホスピタル・ホスピタリティ・ハウス)です。ハウスは、少ない経済的負担で利用でき、プライバシーが守られた環境で、ゆっくり寝たり、料理や洗濯など日常生活に必要な設備も揃っています。
施設によっては、似た境遇の親同士が交流できるリビングなどの共有スペースもあり、ぬくもりのある「わが家」は看病中の家族の精神面をサポートするといわれています。
「病院近くのわが家」はトータルケアの一環
闘病中の子どもと家族のQOL向上の一助に
数年前までは、病気になった場合、「病気を治すためには、時には我慢も必要」という考え方が通例でした。ところが近年では、治療だけでなく、生活の質(Quality of Life)を考慮して、子どもなら誰でも必要な家族とのコミュニケーション、学習や遊びの機会を提供していく事が治療にとっても重要だという発想 が生まれ、実践が始まっています。こうした病気の子どもを包括的に支援することをトータルケアと言います。
長期にわたる治療や療養生活が必要な場合でも、生活の質(Quality of Life)を落さないことは、子どもの治療への意欲を引き出すことにつながります。「病院近くのわが家」は、このようなトータルケアの一環として位置づけられています。
病院近くで「わが家」のように安心して休める場所を提供することによって、付き添い生活に伴う家族の精神的・経済的・身体的負担を軽減すること。それが自宅を離れて治療が必要な子どもと家族の生活の質を支えることにつながると考えられています。
また、入院治療の合間、週末にハウスに外泊に来ることを、何よりも楽しみにしている子どもたちがいます。お母さんの手料理、自由にゲームができること、お風呂にはいれること、誰にも気兼ねせずにお母さんに甘えられることなどは、入院中の病棟では難しいことです。ハウスは「病院近くのわが家」として、自宅のように、日常の当たり前のことができる場所です。
「病院近くのわが家」(ハウス)の呼称
「病院近くのわが家」のことを英語では、Hospital Hospitality House(ホスピタル・ホスピタリティ・ハウス=HHH)といいます。
日本では、運営団体により、慢性疾患児患者家族宿泊施設、患者家族宿泊施設、ファミリーハウス、サポートハウス、アフラックペアレンツハウス、ドナルド・マクドナルド・ハウス等の呼称があります。
本報告書では、以下、「ハウス」という表記で統一します。