1 退院して自宅に戻る前の練習の場としてのハウス活用
【事例発表 概要】発表者:A病院ソーシャルワーカー
- 人工呼吸器をつけているなどの医療処置が必要なお子さんでも、今は自宅で生活できるケースが増えている。重度障害児として出生されるお子さんの退院を促すために、医師、看護師、ソーシャルワーカーが連携して動く。
- しかしながら、親御さんがそういったお子さんを自宅で見ることのできる状況にない場合もあり、お子さんが病院に長期間入院するケースが多くなっている。
- 親御さんに、障害児は病院または施設にいる方がよいという先入観があり、在宅でお子さんと生活することに大きな不安感を持っている場合がある。健康で生まれてくると思っていたのに予想と違ったために、愛着形成が進んでいかないこともある。そうすると、場合によっては、お子さんを自宅退院させることに抵抗感を持つ親御さんもいらっしゃる。
- そこで、退院に向けた最初の一歩を踏み出せるように、病院敷地内にあるハウスを利用していただいた。ハウスは病棟から徒歩1~2分の距離にあるので、病院の敷地内にいるという安心感をまずは持ってもらおうと考えた。自宅に帰るまでのワンクッションのような役割として、ハウスを自宅生活の練習の場として活用してもらった。
- ただ、病院としては、ハウス内で特別な配慮はせずに、環境面の提供のみという形にした。
- このようなハウス利用者を受け入れて感じたメリットは、病院から自宅への移行のクッションになり、その後の自宅退院につながったこと。その要因としては、ハウスを利用することで、家と同じような環境で練習ができたということ。また、精神面でも、お母さんの負担軽減につながったこと。ハウスが病棟から近く、何かあれば医療スタッフが駆けつけられるという状況が、精神的負担を軽減させたと感じている。
- その一方で、事故が起こった場合の責任の所在については不明確な部分もあったと感じている。例えば、万が一、停電が起きて呼吸器が使用できなくなったり、機械が故障したりした場合の対応について、事前に明確な準備ができていなかった。
- したがって、外泊の練習場所としてハウスを活用することについては、今後も議論を重ねていく必要があると思う。また、病院からの距離や運営体制など、ハウスの運営状況によっても対応が異なってくることが考えられる。
分科会でのディスカッションのポイント
新たにハウスが担える機能
入院生活が長くなっていたり、自宅に戻ってからも薬の服用や医療機器の使用を続けるなどの場合は、退院してすぐに家庭で過ごすことに、親が大きな不安感を持つケースが考えられます。そういった場合に、ハウスで自宅生活を「練習」することで、親の不安感を軽減できる可能性があることを共有できました。ハウスで子どもに医療処置をしながら家事をする経験ができることで、退院して自宅で過ごすことに自信を持てるという効果が考えられます。
- 病院は特殊な環境のため、家庭というものを再認識し、日常生活に戻るペースをつかむ大切な時間だと感じました。闘病生活を送る方々同士がコミュニケーションをとることで、自宅へ戻ってからも気持ちが前向きになるのではないかと思いました。
- 病院内でずっと子どもの治療を見守ってきた親(母親)が家庭に戻る前、日常の子どもと母親としての関係に戻ることの再認識に役立てるということを感じました。
- 母親のリハビリとしての利用、母子ともに家庭に帰る前に練習する必要性。
病院との連携の必要性
医療処置の必要な子どもとその親がハウスを利用することで、これまで以上に、病院とハウスが密に連携をとっていく必要性も指摘されました。まず、医師、看護師、ソーシャルワーカーなどに、ハウスのハード面や運営体制を十分に理解してもらうこと。
その上で、子どもと家族が、安心・安全にハウスで過ごせるよう、病院とハウスが十分にコミュニケーションをとって、受け入れの体制づくりをすることが必要です。
そうすることで、ハウスを利用する家族は、病院からも見守られている安心感と信頼感を持って過ごせるようになり、ハウス側は専門家に関わってもらうことでハウスの安全性を高められます。
- ファミリーハウスは、「病院につながっている」という安心感を与えることができる場所だと感じました。
ハウスマネージャの能力向上
医療処置が必要な子どもと家族がハウスを利用する場合は、原則的には、家族が自己責任でハウスを利用することになります。ただし、例えば子どもの体調が急変した場合などにスムーズに病院と連携がとれるだけの、知識・技能・態度をハウスマネージャは新たに学ぶ必要が出てくると思われます。
ただその一方で、ハウスは「病院を忘れられる場」「わが家のように日常的な雰囲気で過ごせる場」としての機能も担っています。医療処置をしながら過ごす場合でも、そういった日常性を感じられるようなハウスを目指したいという意見も出ました。
- ハウスマネージャは、安全対策等、幅広い能力が必要となる。この面での教育訓練を 行うことも必要とされる。
- 「練習の場としてハウスを利用する」と考えると、どうしても立場が病院に近くなってし まうような気がするが、それをどのように「家」側に持っていくかが少し気になった。
新しい機能だからこそ、慎重に検討する必要性
ハウスのハード面での状況、スタッフの体制、病院とハウスの距離など、ハウスの運営状況は多様です。そのため、どのハウスでも、自宅に戻る前の練習の場として活用することがすぐにできる状況ではないという意見が出ました。
こうした新しい機能を担っていくためには、利用のご希望があったときに、受け入れる場合どのようなリスクがあり、何に配慮する必要があるのかを各ハウスで十分に検討する必要があります。
- 各々の団体の状況や人員、リスク管理とそもそものニーズによって個別対応になる事例だと思う。新たな活用という気づきはあった。現実は厳しいが、いい議論ができて良かった。
- 個々のハウスの事情でハウスマネージャがいるかいないかでできることが違ってくる。
- ハウスとして受け入れできること、できないことを明確にする。
- リスク等を認識した上で受け入れ、常に気にかける。情報をメモ等で引き継ぐ。など、通常よりも手厚い支援が必要だと感じました。