「病院近くのわが家」として全国に広がった患者とその家族の滞在施設(ホスピタル・ホスピタリティ・ハウス)が、より役立つハウスとなるよう、運営の質的向上を目指して研修会を開催いたしました。本書は、その報告書です。研修会と報告書の作成にあたっては、平成22年度(2010年度)の独立行政法人福祉医療機構「社会福祉振興助成費補助金」の助成をいただき、「全国滞在施設運営団体の事例に基づく研修事業」として実施いたしました。
重い病気と闘っている子どもは10~20万人を超えるといわれています。そのうち、自宅から離れた病院での治療が必要な家族には、「病院近くのわが家」としてのハウスが必要になってきます。どの家庭でも子どもが高度医療を必要とする病気になる可能性があります。
こうした家族のために、1990年代前半から、各地でハウスの必要性を感じた人が、ボランタリーにハウス活動を始めてきました。1998年と2001年には、厚生労働省によるハウスの建設費補助を受けて、病院が直接運営するハウスも増えました。また近年では、企業がハウス運営に直接参加する形態や、行政・医療機関・NPOの協働によるハウスも増えてきました。現在では約70の運営団体が全国でハウスを運営しているといわれています。
まだハウスが1つもない都道府県もあり、今後も認知度の向上とハウス開設の動きは全国的に必要です。しかし、その一方で、既存のハウスの質的向上も不可欠です。
昨年の研修会では、ハウス運営全般を視野に質的向上を検討しましたが、今年は利用者対応について焦点を絞りたいと考えました。日本でのハウス運営が始まって約20年。現在であれば、各ハウスでのノウハウもある程度蓄積されてきており、「利用者により役立つハウス」を目指すための深い議論ができるのではないかと考えたためです。そこで、テーマを4つに絞り、事例発表に基づいた研修を行うことにいたしました。
研修会では、まず全体会として(1)「退院後、自宅に戻る前の練習の場としてのハウス活用」、(2)「きょうだい児保育」、(3)「初めてハウスを利用する人への対応」、(4)「対応に苦慮する利用者」の4つのテーマについて、事例を発表していただきました。続いて各テーマ別に分科会を行いました。最後に、もう一度全体会を行い、分科会での検討内容を参加者全員で共有しました。
今回の研修会を実施して、より利用者に役立つハウスにしていくために、対応すべきニーズに応えられるようにしていくという長期的な視点と、安心・安全に過ごせるハウスにするために慎重に対応していくという短期的な視点のバランスの重要性を確認できたと感じています。
また、全国のハウスは、運営体制や施設のハード面がそれぞれに異なっており、その多様性から学ぶことが多い研修会だったとも考えています。運営団体の多様さや、また利用する家族のバックグラウンドの多様性から、利用者対応について唯一の方法を設定することは現実的ではありません。今回の研修会では、各団体の様々な活動内容や工夫策を情報交換することで、多様性のなかで共通する部分として、闘病生活を送る一人ひとりにホスピタリティをもって対応するというハウスの基本理念を、改めてしっかりと確認することができました。そして、利用者と運営者のためにより役立つハウスにしていくための具体的な改善アイディアを、参加者一人ひとりが自団体の状況に基づいて考えることができた研修会になったように思っています。
この報告書は、研修会の場で利用者対応について議論した成果を、多くの皆さまと共有したいという思いを込めて作成いたしました。そして、今後もこうした研修会をぜひ継続していき、ハウスの質的向上につなげていきたいと考えています。
今年度、研修事業に取り組めたのは、「社会福祉振興助成費補助金」の助成はもちろんのこと、事例発表者やファシリテータの皆さまのご協力によるものと感謝いたします。また、研修会にご参加いただいた皆さま、本当にありがとうございました。企画に関しては、検討委員の皆さまから貴重なご意見をいただきました。また、多方面の個人・企業・団体の皆さまからご協力をいただき、研修会を実現させることができました。心より御礼申し上げます。